本アルバムは1976年10月から1977年４月にかけてエアー・スタジオで（４曲は1977年４月デシベル・スタジオで）録音された音源集である。現在確認できる“マーク・ボラン最後のスタジオ・ワーク”になる。

ロンドン中心部のオックスフォード・ストリートにあったエアー・スタジオは、ザ・ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンによって1969年に創立された。1970年代〜1980年代、数多くのミュージシャンが名盤を録音した由緒あるスタジオ。マーク・ボランがこのスタジオを使い始めたのは1970年の末。「ライド・ア・ホワイト・スワン」のヒットを飛ばし、T.REXが本格的なエレクトリック・バンドになった頃から。アイディアがわくとアメリカや日本などのツアー先も含めてどこででも録音をしていたマークだが、ロンドンではここがお気に入りのようで、1977年９月に亡くなるまでの間、頻繁に使用していた。

イギリスのレーベル、Demon Records によると、エアー・スタジオが1989年に閉鎖された時、スタジオの受付係をしていた女性がこれらのマスターテープを持ち帰り、ずっと自宅で保管していた。そして、マーク没後25年目の2002年。イギリスではテレビでT.REX特別番組が放送されたり、マーク・ボラン写真展が開催されるなど記念イベントで盛り上がっていた。彼女は自分が保管していたテープをローランに返却したいと申し出たという。それが、この『The Final Cuts』収録音源のマスターテープだったのだ。

[3][7][8][9][11][13][14][15]は、オフィシャルには初公開される音源だと思われる。
[9] [15]は1958年のフィル・スペクター作品「To Know Him Is To Love Him」（ザ・テディベアーズのヒット曲）のカヴァーで、歌詞を変えたものだ。
このように“最後のスタジオ・ワーク”の全体像を非常に良い状態で確認することができるのは、初出のものを含めて今回初めてマスターテープからの完全デジタル・リマスタリングが実現したからだ。

[16] [17] [18]は日本盤のみのボーナス・トラックで、やはり1976〜1977年に録音されたもの。
本作から伝わってくるのは、次へ進もうとするマークの意志。1978年春に出す予定だったT.REXのニュー・アルバムへの手がかりが、ここにダイヤの原石のように埋まっている気がする。

（ライナーより要約。タバタユリコ）