「君からの電話を待っていたところだよ!」
~ブレット・アンダーソン、単独インタビュー!~
11月18日にサード・ソロ・アルバムをリリースする、ブレット・アンダーソン(スウェード)。新作「Slow Attack」や近況についてインタビューしました。

Photo: Viva Zaccari Q:ご機嫌はいかがですか? A:悪くないよ!ずっと座って、君からの電話を待っていたところだよ。
(訳注:時間通りにかけたんですが、ブレットってまじめな人なんですね)
Q:それはどうも。ロンドンのお天気は? A:もうすっかり秋だね。寒くてもう暖炉をつけている。昨日の夜、暖炉の前に座っていたんだけどいい感じだった。間もなく冬だよ。ローストの季節だ。
Q:クリスマス・プディング(クリスマスの時に食べるフルーツ・ケーキ)を作り始める頃ですね。 A:その通り!あとはキャベツがおいしい季節だね。今、東京の気候はどうなんだい?
Q:ロンドンよりずっと暖かいですよ。ロンドンはさっきあなたもおっしゃっていましたが、晩秋という感じでしょうが、東京はまだ初秋から中秋という感じです。1月は多分かなり寒くなると思いますが、東京の冬はお天気が良くて青空が広がったりするからけっこう気持ちいいですよ。 A:それは良かった!今、こうやって東京の話を聞いているだけでノスタルジーを感じるよ。早く行きたいなあ。東京は本当に美しくて、マジカルな感じがするし、何回でも行きたいよ。
Q:さて、前回のソロ・アルバムは本当に素晴らしくて、今でもよく聴いています。また、昨年12月の、チェロ奏者を伴っての来日公演も感動しました。 A:ありがとう。僕も去年の日本公演はすごく楽しかった。
Q:あなたが毅然と新たな大地を歩もうとしているのが切実に感じられて感動しました。あのときのあなたの所感は? A:東京に行くのはいつでも楽しいし、いつ行ってもワンダフルな時間を過ごせるね。またすぐに行きたいと思っているんだ。実は来年の1月にまた来日公演をやるという話があってね。実現すればいいんだけど・・・
Q:コンサート自体はどうお感じになりましたか? A:前回の来日はたったの2公演と少なかったけど、特に東京のコンサートが良かったと思う。すごくスペシャルだったよ。僕とチェロ・プレイヤーだけという、とてもミニマルなやり方で、僕にとっては自己鍛錬のような内容だったけど、それがまた楽しかった。やり遂げた、という充実感でいっぱいだったよ。今までああいうショーをやったミュージシャンは、あまりいないと思うんだ。それをやり遂げた後は、もう同じことを繰り返すつもりはない。先に進まなくてはね。だからここ最近はバンドと一緒にリハーサルしているんだ。Slow Attackはバンドと一緒にプレイするよ。ドラム、ベース、ギター、ピアノというフル・バンドでね。以前のようにミニマルに戻ろうと思えばすぐにでも戻れるけど、毎回ピアノとチェロだけでショーをやるのは不可能だからねえ。
Q:そのミニマルな前作『ウィルダネス』は、今振り返るとどんな印象を持っていますか。 A:今でも大好きだし、誇りに思っているよ。自分の音楽キャリアの中で重要な意味を持ったアルバムだと思うんだ。あれは基本的には自分ひとりで作ったアルバム。全曲自分で書いて、チェロ以外の楽器を全部演奏してね。自分に対するチャレンジだったと思う。「俺はこれが出来るんだろうか?俺はこれに耐えられるんだろうか?」って自問自答しながら作った作品だよ。とても価値のある、パワフルで美しいアルバムだ。将来また同じようなことに挑戦するかも知れないな。同じことを繰り返すのはいやだから違う形でね。
Q:今作はどんなものにしたいと思いました?制作に取りかかる前に何かアイディアはありましたか? A:あったよ。さっきも言ったけど今回はサウンドトラックというものに影響を受けてアルバムを作り始めたんだ。映画のサウンドトラックのような作品にしたいと思ってね。サウンドトラックの持つ、スペースとか、思いをめぐらせながら聴けるような音楽を作りたいと思ったんだ。歌詞に関しては、物語を語るようなものは以前書いたから、今回はもっとフリーで印象主義的な雰囲気にしようと思った。作風とか、語句はテッド・ヒューズ(訳注;イギリスの詩人)からかなり影響を受けているよ。彼はダークで荒々しいカントリー・サイドのことを詩にしているんだ。具体的によく聴いていた音楽、つまりバンドは、シガー・ロスとかトーク・トークで、彼らのような独特の雰囲気のあるサウンドからインスパイアされた。
Q:前作と比べ、管楽器の存在をはじめ、より多彩になっている感じも受けましたが。アレンジで留意したことはありますか A:うーん・・・今回はミニマルなものを作る気はなかったからアレンジもより複雑になり、成熟した・・・という言い方が適切かどうかわからないけど、手の込んだ、完成度の高い作品にするように意識したよ。
Q: 前作はけっこうライブ・レコーディングみたいな感じで録られたと聞きますが、新作はどんな感じで録音は進められたのでしょう? A:ごく一般的な、あたり前のやり方だよ。でもレコーディングはバンドと一緒じゃなくて、僕とレオ・エイブラハムスがコンピュータを前にコントロール・ルームに座って行なったんだ。と言っても、シンセンサイザー・ミュージックとかじゃなくて、ちゃんと生の楽器を使ってミュージシャンが演奏したものをレコーディングしたんだけどね。木管楽器もちゃんとプレイしている。ただ、バンド・メンバーが一つの部屋に集まって、同時に演奏するということはやらなかったということだよ。
«前半より
Q:アルバム・タイトルはどうして『スロウ・アタック』としたのでしょう? A:スロウ・アタックというのは音楽用語でフェイド・インという意味があるんだ。この、スロウとアタックという一見正反対に見える言葉の組み合わせが気に入ってね。何故だろう・・・自分でも分からないけどこの言葉の響きが好きなんだ。
Q: 夜より昼間、それも午前中の風景を想起させる歌詞が多いようにも思いました。なんか、あなたがヘルシーな生活を送っているようにも思えましたが。現在、普段は郊外に住んでいるのでしょうか? A:いや、住んでいるのはロンドンの中心、ノッティング・ヒル・ゲイトだよ。もう20年くらい同じ家に住んでいるんだ。郊外には住む気がしないんだ。ハッピーに暮らしているけど、それがヘルシーなのかどうかはわからないなあ。
Q: また、前作より愛に言及している内容が増えているようにも思いますが。私生活がより充実しているように思えましたが。 A:さっきも言ったように僕はハッピーに暮らしている。私生活はずっと充実しているよ。前作ではいろいろな愛の形を詞にした。恋に落ちたり、恋に破れたり。でも基本的には愛だけじゃなく、いろいろな人との関わりというものを描いたつもりだ。今作では愛とか、人との関係にインスパイアされて書いたものが多い。人との関わりだけじゃなく、いい音楽を聴いて感じる、要するに音楽との関係にもインスパイアされているんだ。前回はわりと具体的に表現したけど、今回は「何かを語る」という方法は使わなかったよ。
Q: 歌声がもっと艶やかになるとともに、存在感をましているようにも思えました。ボーカルについて気に留めたことは。 A:ありがとう。今、自分でもけっこう歌に関しては自信を持っているんだ。歌うのは楽しいし、喉をケアしているから楽器として自分の声を捉えることが出来るようになったよ。歌声が存在感を増していると言ってくれたけど、まさにその通りで、たとえ小さな声でもパワーのある歌、雰囲気がある歌声というものを目指しているんだ。歌い方はソフトだけどドラマティックなボーカルにね。だから今作ではソフトでジェントルに歌っているものが多いんだ。「ヒム」ではファルセットで、「フローズン・ローズ」では歌い上げ、パワフルになったと思うよ。
Q:サウンドトラック、シガー・ロス、トーク・トークなどを聴いているとおっしゃていましたが、他には?クラシックなども聞いていたりするのでしょうか。 A:僕はフィリップ・グラスとか、スティーヴ・ライヒとかモダン・クラシックが好きなんだ。特にスティーヴ・ライヒからは影響を受けている。彼の音楽はリズミックで繰り返すパッセージが特徴なんだけど、そういう部分からはすごくインスパイアされたよ。
Q:では、音楽を離れて、現在興味を持っていることは。 A:詩を読むことだよ。さっき話したよね?新作ではサウンドトラックと詩から影響を受けているって。
Q:テッド・ヒューズですか? A:そうそう。詩もある意味で音楽と似ているんだ。言葉そのものの意味よりも言葉の響きとかフィーリングが大事なのさ。あとはアートも好きだ。好きなのはヴィジュアル・アートだ。でも、新作を作るにあたって直接影響は受けてない。「この曲はこの絵から影響を受けました」なんてありえないよ。でも、「美」というものに対してのセンスを養えるし、インスピレーションももらっている。
Q:「アートが好きだ」とおっしゃっていましたよね。美術館へはよく行くんですか? A:よく行くよ。一番好きなのはサーペンタイン・ギャラリー(訳注:ケンジントン・ガーデンズの中にある美術館)だ。
Q:お宅から歩いて行かれるじゃないですか。 A:その通り。公園の真ん中にギャラリーがあるなんて素晴らしいよね。
Q:これまでのキャリアにおいて、ターニング・ポイントだと思えることはどんな事でしょう? A:ソロになったということはものすごいターニング・ポイントだった。ソロになるという決断をするまでは大変だったよ。自分ひとりで全責任を負うわけで、自分を信じていなくてはできないことだからね。あと、自分が作った音楽が嫌いだという人がいるという事実を受け入れる用意が出来ていないといけない。自分が有名になった時にやっていた音楽と違う音楽を作るというのは、大変な勇気と決心が必要で、人生一番のターニング・ポイントになった。
Q:かつてのスウエード時代のイメージを重く感じることはあったしますか? A:スウェードにいたという事実は消せないし、僕の人生の一部だと思ってるし、ソロになってからの作品には自信を持っているから、別に何とも思わないよ。ただ、「もうソロになって3作目なのに、いまだにスウェードの話をするのか」って思うことがある。「もう語るべきことは語りつくしているのにこれ以上何を聞きたいんだ?」ってね。とっくの昔に終わったことなのに、また話すことには飽き飽きしている。
Q:10年後の自分を想像できますか。 A:確実に音楽は作り続けているだろうね。あとはわからないよ。分からないから人生は楽しいんじゃないかな。
Q:日本のファンにメッセージをお願いします! A:日本は大好きでいつ行っても楽しい。1日も早く来日してライブをやりたくてたまらないよ。またラブリーなファンに会えると思うと待ちきれない。日本のような所でライブが出来るのは光栄だと思ってるよ。
構成:佐藤英輔
インタビュー&翻訳:前むつみ